幼少からいまに続く一筋のレールをゆく鉄道専門コンサルタント

IY Railroad Consulting 代表 西上いつきさんのST0RY

コンサルティング業を軸に海外のエージェント業務や業界のキャリア支援、鉄道アナリストとしてのメディア寄稿など幅広く活躍するIY Railroad Consultingの西上いつきさん。安定企業の象徴ともいうべき鉄道会社に入社しながら、結婚を機に独立起業への道をひた走ることになった西上さんは、生まれ育った“土”にどのような“種”を見つけ、いかにして“芽”を開いたのか。ローカルに根差した種がグローバルの陽を浴びて芽生えた真っ直ぐなST0RYをお話しいただきました。
インタビュー・文=神 誠(ST0RY編集部)

起業マインドを叩き起こした海外旅行


――小さいころに好きだったこと(もしくは嫌いだったこと)は何ですか?


幼稚園のときの将来の夢でも「電車の運転士さん」と書くほど、小さいころからずっと鉄道が好きで今日に至るのですが、その後はいわゆる「乗り鉄」とか「撮り鉄」のような鉄道マニアの“鉄っちゃん”ではなくて、鉄道が結ぶ都市間のネットワークというか、鉄道の仕組み全体が好きでしたね。

それがひいては地理への興味に高じ、県庁所在地や政令指定都市はどこにあって、都市の規模や人口の増減はどうなのかみたいなことに夢中になり、愛読書の『地図帳』『路線図』『時刻表』をボロボロになるまで読み込むような子どもでした。

――小さいころに影響を受けた人は誰ですか?


難しい質問ですが、最初に思いついたのは高校の同級生だったリュウジくんですね。私は地元の公立中学から大阪市内の私立進学高に進み、入学当初から当然のように勉強が一番のプライオリティだったのですが、彼は勉強なんて片手間のようにこなしながら、世界の歴史や映画、音楽、果てはアイドルや特撮アニメのようなカルチャーにも造詣が深くて…。頭の容量は大きいし回転も速い彼を目の当たりにして「自分は井の中の蛙だったなあ…」と感じさせられましたね。

実は彼とはその後、一緒のチームで高校生クイズの全国大会に出場するんですよ。もちろん私にも地理のような得意分野はありましたが、彼のものすごい知識量あっての全国出場だったことは否めません。いまも付き合いは続いていますが、話をしていてもやはり目の付け所が鋭く、同世代ながら尊敬しているというか、同い年なのに“ライバル”とは言えないぐらい上に見ている存在ですね。

――小さいころの一番の成功体験を教えて下さい。


高校生クイズで予選を勝ち上がり全国大会に出場したことはひとつよい想い出ですが、もう少しさかのぼると小学校3年生のときでしょうか。夏休みの自由研究で、全国47都道府県の県庁所在地をマッピングするという大作を手がけたことがありました。

木の板に日本地図を描いて、都道府県別に人口密度を色分けして見せながら、濃淡の背景を発表してみせたのですが、地図や統計を読み込んでいた自分としては普通だと思っていたことに、大人たちが集まって「すごいすごい!」と驚かれたり褒められたりで、子どもながらによい成功体験となりました。

いまになって思うのは、こういう子どものときの知識が意外に侮れないということ。たとえば「○○県で人口が一番多い都市は?」と聞かれたら答えがしっかりインプットされていますし、そういう知識の積み重ねの上にいまの行動があるような気がします。成功体験とは違うかもしれませんが、文字通り「ルーツ」というか、いまにつながっていると実感できる原体験のひとつですね。

――いまのお仕事を始めようと思ったきっかけはどんなことですか?


もともと学生時代から起業してみたい気持ちはありました。でも社会で働いたことがない学生には何をやったらいいかわかりません。鉄道が好きだから、じゃあ線路を引いて電車を走らせるか…って無理じゃないですか(笑)。ですから起業したい気持ちは秘めつつも、大学卒業後はご縁のあった名古屋の鉄道会社に入社しました。

ところが、もともと街づくりや都市開発に興味があって「総合職」で入ったはずが、鉄道の最前線も体験したいと手を挙げて運転士や車掌、指令所にも配属してもらった結果、日々の業務にのめり込むあまり入社してからの数年間はすっかり起業マインドを寝かせる羽目になりました。

そうこうするうちに27歳で結婚することになり、新婚旅行で初めて海外に行くんですね。地理好きと言っても国内だけだった私が、シンガポールとマレーシアに。その初めての海外旅行で、シンプルにカルチャーショックを受けました。まず外国人がたくさいんいることにびっくりしましたし、当時はまだ英語もできなかったので、入ってくる情報の一つひとつがわからないことが衝撃でした。

あとから調べたところ、英語がわからないと世界の99%の情報を知らないに等しいだとかで、「自分が知っている世界はなんて狭いんだ…」と気づいたら居ても立ってもいられず、新婚旅行の2ヶ月後に再び長期休暇を取ってマレーシアへ単身旅行に出かけました。そのときあるカフェで出会った日本人の青年が、店員と普通に英語で会話している内容を私ひとりわからないことに愕然として、世界との距離を痛感したのです。

大阪の高校で友人のリュウジくんに気づかされた「井の中の蛙」状態…その“世界版”が目の前で起きつつあるぞと気づいたときに「これはダメだ」と悟り、グローバルに活躍できるようにならないと絶対に後悔するからと一念発起して、28歳のときに退職を決めました。

そこからは起業に向けて着々という感じで、まずはまったくできなかった英語を習得するために3ヶ月間フィリピンに留学し、その後シンガポールの企業に就職して1年半ほど、英語でビジネスをするトレーニングを積みました。東京に戻ってからもいきなり独立するのではなく、企業の経営企画に携わってビジネスを学びながら、副業というかたちで準備と実践を重ね、満を持して2019年4月の起業に至ったわけです。

起業にたどり着けた最大の要因とは?


――いまのお仕事を通じてどんな使命を果たしたいと思っていますか?


私は起業にあたり、「よりよい鉄道の未来をつくるため、国内外における人財・事業活動の活性化につとめる」という理念を掲げました。具体的には、縦割りで横の壁が厚いガラパゴス的な日本の鉄道業界に、風通しのよい横断的なプラットフォームをつくることが必要だと考えています。

もちろん、業界の活性化には鉄道事業者本体が動くことが不可欠ですが、業界の中にいるとルールや制約でがんじがらめになり、思うように動きづらいのも事実です。その点、私はいま業界の外にいて、一人でとても動きやすい状態にある。そんなフレキシブルな立場を強みに、いわば“外野”から鉄道業界と正反対の動きをできればと思っています。

――いまのお仕事で最初に手ごたえを感じたのはどんなときですか?


鉄道×グローバルという自分の経験をもとに、初めてセミナーを主催したときのことでしょうか。最初は人が集まらなかったらどうしようと不安でしたが、いざ開催してみると興味を持って来てくださり、私の話を「面白かったです!」と言ってくださる方々に出会い、自分のコンテンツに確かな聴衆がいることを感じました。

それはいま、教育機関などで非常勤講師を務めるようになってさらに鮮明で、講義の内容を受講生たちが直に面白がってくれるようすを見ると、自分の知識や経験が価値あるものとして還元できているという手応えを感じますし、今後ますますブラッシュアップしていこうというモチベーションになっています。

――いまのお仕事を成功に導いた要因はなんだと思いますか?


大きく2つあって、ひとつはやっぱり海外経験で学んだ行動力ですね。特に中華圏・東南アジアの方のビジネススタイルはスピード重視で、チャンスがあると思えば即断即決で動くのを目の当たりにしました。後先を考えないといったら失礼ですが、そう見えて実は頭の中では計算が働いている。そこに行動力がともなっているからこそ、きっとここまでのスピードで発展しているのだと納得しました。私もそんな彼らにふれて、意外と一つひとつの行動にびくびくしなくてもいいんだということを学んだ気がします。

2つめは手前みそながら、妻の理解があったことがすごく大きいです。そもそも妻にしてみれば、鉄道会社に勤める安定した人に嫁いだという思いがあったと思うんです。それなのに私は新婚旅行をきっかけに退職し、さらに留学して転職して起業までしてしまった。そのすべてのターニングポイントで私の考えに賛同してくれて、スムーズに送り出してくれた妻には頭が上がりません。どこかひとつでも分岐が反れていたら現在地にたどり着いていなかったと思うと、赤信号が出なくて本当によかったなと(笑)。

――いまのお仕事をこれからどのように発展させたいですか?


2019年8月に「日本の鉄道の未来を考えるフォーラム」というイベントを開催しました。これをまずは一年に1回の定期開催を目標に7年計画で拡大していって、7年後には1000人規模が集まる一大フォーラムにしたいと思っています。そこに鉄道事業者や各種サプライヤー、その他の専門家、教授を集めて情報提供や意見交換を盛んにし、日本の鉄道の課題発見から解決までをスムーズに行える活動を推進したいと思っています。

またフォーラムの開催と並行して注力したいのがキャリア支援で、鉄道業界で働く人材の育成や採用におけるフィルターのような役割を果たしたり、コンサルティングという広範な業務を通じて得られた経験、知識、人脈を活かした教育の機会を提供することで、この業界に優秀な人材を送り込める流れを作れたらいいなと考えています。

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